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第7話 まどろみはワインと共に

last update Last Updated: 2025-05-19 12:42:11

 真っ赤な情熱的なドレスを身にまとった煌びやかな貴婦人をブルーの燕尾服を纏ったスタイリッシュな紳士がエスコートする場面などなど……。

 よく見ると大半の方々がそれぞれお気に入りの仮面をつけているのが散見されていた。

 ということで、私達もそれに習い各自用意していた装飾仮面を懐から取り出し、静かに身に纏う。

 ちなみに小次狼さんは龍を模した仮面を、私は右寄りに赤薔薇の飾りがついたベネチアンマスクを身にまとった。

 それぞれ昔のコードネームを模しているので、それなりに意味はあり、小次狼さんは【禅国の雷龍】、私は【レッドニードル】だったりする。

 てなわけで、準備が整った私達は紳士淑女それぞれが片手にワイングラスを持ち優雅にざわつく会場内を颯爽と歩いて行く。

 そう、まるで優雅なワルツを踊るように軽やかに……ね。

 え? 「何故場慣れしてるか」って? 

 そりゃ、わたくし昔怪盗業をやっていた身なので、昼間は堂々とこんな感じで現地の下見とかしてましたからね……。

(もうかれこれ百年以上も昔の話だけどね……。私、なんせ長寿のエルフなんで……ええ)

 隣を歩いている小次狼さんも忍びの元統領だし、威風堂々としてるもんです。

(よくよく考えると、私と小次狼さんって元裏家業のツートップなのよね)

 今は孤島でのんびりモフモフスローライフで、花屋と魔石商やらせていただいてますが。

 それは兎も角、今は少しの運動と頭を使ったからか丁度小腹が空いている。

 ということで、私達も白テーブルに置かれているとても美味しそうなワインとコックが運んできた出来立ての料理を食べていく。

「あ、この貝のパスタとても美味しい!」

「そうじゃな、ここは海辺近くだし、川も近くに流れているしの。イッカ首都は海産物や川辺の美味しい物が食べられる場所で有名じゃしのお」

「芸術の国であり、海産物料理が美味しい国か……。なんともオシャレな国……」

「そうじゃの、だからこそ戦争の歴史が長くはあるの……」

「栄華の頂点に争いの歴史あり……か」

(それが嫌だから私は組織を抜けたのよね……) 

 私達は見晴らしの良い城の最上階から見下ろした海辺や草原などの極上の風景をつまみに、美味しい白ワインを飲み干していく。

 そして思うのだ、だからこそ今は真っ当に生きたいと思い、コツコツとこの仕事を私は頑張っている。

(これは言い訳にしかならないけど、幼心に組織に拾われて育った私に善悪の判断なんかつかなかったしね……) 

 私は自身の薄い紫色の髪にそっと触れ、昔を思い出す。

(そう、私の髪の毛の色は生まれつき銀髪だった……) 

 でも、そうあの日、組織の試験を無事合格しコードネームを与えられたあの日。

 私の髪の色は組織の考え同様紫色に染まった……。

「……嬢ちゃん?」

「……え?」

 ふと気が付くと、小次狼さんは私の顔を心配そうな顔で覗き込んでいた。

「一体どうしたんじゃ? 嬢ちゃんはたまに思いつめた顔をするの?」

「ええ、ちょっと昔を思い出してね……」

 元忍びの統領であり、洞察力の深い小次狼さんに嘘は通用しない。

 だから本当の事を言える程度に話す私。

 余計な心配もかけたくないし、そこらへんは小次狼さんもプロだから理解してるだろうしね。

「ま、嬢ちゃんも色々あったろうしの。余計な詮索はしないが、話したい事があればその時に話してくれれば良い」

「そうね……」

 小次狼さんと私は数年の付き合いがあるビジネスパートナー。

 お互いの力量も知っているし、ある程度のお互いの過去の話も知っている。

 更には自分の過去の事でお互いに迷惑がかかる可能性がある事も。

 それを考えると話しておかないと逆に迷惑になる情報もある……。

 自分は小次狼さんの仕事の力量も、その強さも理解しているつもりだ。

 だから……。

「ねえ? 小次狼さん聞いてくれる? 私の昔話……」

「うむ、儂も元忍の統領じゃ。色んな話は聞いている。嬢ちゃんの組織の事も当然な」

 信頼出来るからこそ話してもいいかもしれない。

 きっと今がその時……。

「まあ、嬢ちゃん。結婚祝いにはまだ、時間がかかりそうだし一杯飲みながらゆっくり話を聞こうかの」

「うん、ありがと……」

 私は小次狼さんがグラスに静かに白ワインを注いでいくをゆっくりと眺めながら語って行く……。

 そう、ゆっくりと、百年前のあの事を……。

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  • 元怪盗令嬢【レッドニードル】レイシャは世界を変革す   第6話 芸術の城

    「彼は嬢ちゃんの知り合いか?」「いえ、全く心当たりがないわ……」 その様子を静かに見守っていた小次狼さんは私にそっと尋ねる。(本当に心当たりが無いのよね。組織の知人の誰にも該当しないし……) ただ、気になるのは先程銀髪の青年が身に着けていたペンダント……。(でも、あれは彼が身に付けているお気に入りの物だし、多分類似品だろうと私は予想してるけど……)「しかし、爽やかな青年じゃったな……」「あ、小次狼さんもそう感じました?」「ああ、嬢ちゃんに近づいてきたのも本当に挨拶目的じゃったしな」「うん、純粋で邪気を感じなかったしね」 お互いの顔を見合わせ、感じた情報交換をしていく私達。「ただ、分っているのは青年の言う通り、城内で再び会うということか」「ええ、そうでしょぅね」 私は先程の青年の笑顔に何故か懐かしさを感じてしまい、そこが妙なもどかしさを感じてしまっていたのだ。「ねえねえ! あの陶磁器色艶が凄かったね!」「ああ、曜変天目のまるで星のような煌めきに宇宙を感じれたしのお……」 私達は目を輝かせ興奮し、語り合いながらラウヌ美術館を出ていく。 そう、『仕事は遊び、遊びは仕事』これが私達の仕事のスタンスであり、これらの話し合いは客観視した仕事としてのインプット後の大事なアウトプット作業の答え合わせなのだ。 こうして私達は目の前の円状の大噴水を眺めながら、しばし語り合った後、晴天の最中真上に昇る太陽を見つめ、イッカ城へ向かうのだ。 それからしばらくして……。「うーん、流石に見事なお城ね……」「ああ、そうじゃな」 私達は目の前に見える、幻想的で超巨大な白亜のお城を眺め思わず感嘆のため息をついてしまう。 というのも今、私達は吊り橋を渡ってやや遠くからイッカ城を眺めているのだが、海辺に建てられたその様子が本当に凄すぎて……。(天気が良いからか、水面に写った白城がまた何とも言えない味がでていて、もうね……)  お陰で私達は時間を忘れ、その素晴らしい情景を楽しみながら目的地である城内に辿り着くことになる。「本日はようこそいらっしゃいました。ささ、どうぞ城内へ。婚礼の間には私が案内させていただきます」 流暢な動作と共に私達に礼をするのは、見た目二十歳前後の体格の良い黒服金髪のミドルヘア男性執事。 彼にまぬかれ、私達は大人2人分はあると思

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